事業では利益が出ているのに、利益ほどキャッシュが残っていないという現実を実感したことがありませんか?
更に、利益がでているため、税金を支払わなくてはならず、その税金を払う現金さえ事欠くこともあるかもしれません。
この現象はなぜ起こるのでしょうか?その原因は利益と収支の計算の違いにあります。
たとえば、商品を仕入れた金額より高く売れれば「利益」がでます。
でも、売った代金の回収が滞れば現金が入ってこないため「利益」と同じだけの「収支」は得られないことになります。
また、現金で支払ったものすべてが「利益」を計算するときに「費用」として控除することができる訳ではありません。
これらの差額が利益と収支の差異を生むのです。
損益計算で求められる「利益=儲け」と収支計算で求められる「収支=現金残高」の違いについて、考えてみましょう。
損益計算と収支計算の両方を検討する必要があります。 |
損益計算とは 「いくら儲かったのか」 を計算することで、収支計算とは「(お金は)いくら残高があるのか」を計算することです。
簡単な例を挙げて、考えてみましょう。
① 85万円の家具を仕入れ、代金は翌月の末に支払うこととします。 ② 翌日、仕入れた家具を120万円で販売し、代金は翌月に受取ることとします。 |
以上の取引を通して、会社の「損益計算」と「収支計算」を計算してみましょう。
1.損益計算
損益計算とは「いくら儲かったか」を計算するのですから、この例の場合、85万円で仕入れた家具を120万円で売ったのですから、儲かったお金は35万円ということになります。
収益 (120万円) − 費用 ( 85万円) = 利益 ( 35万円) |
つまり、損益計算とは、ある一定期間の「収益の総額と費用の総額とを比べ、どれだけ利益(または損失)があったかを計算すること」をいいます。
2.収支計算
収支計算とは「(お金は)いくら残高があるのか」を計算しますので、この例の場合は、現金収支をみれば、すぐに現金の残高を計算できます。
現金の総収入は、販売代金の120万円であり、逆に現金の総支出は、仕入代金として支払った85万円になります。
よって、その差額35万円が現金残高ということになります。
総収入 (120万円) − 総支出 ( 85万円) = 現金残高 ( 35万円) |
3.損益計算と収益計算のズレ
ここで、「ある一定期間」が今月末までの場合と、翌月末までの場合とでそれぞれ計算してみましょう。
<今月末までの場合>
損益計算は、 収益 (120万円) − 費用 ( 85万円) = 利益 ( 35万円) 収支計算は、仕入代金の支払い及び販売代金の回収は翌月末であるため、 総収入 (0円) − 総支出 ( 0円) = 現金残高 ( 0円) |
通常、現金による取引よりも「掛け」による取引のほうが多いですから、上記のような期間のズレはよく発生し、損益計算と収支計算とは一致しなくなります。
<翌月末までの場合>
損益計算は、 収益 (120万円) − 費用 ( 85万円) = 利益 ( 35万円) 収支計算は、仕入代金の支払い及び販売代金の回収は翌月末であるため、 総収入 (120万円) − 総支出 ( 85万円) = 現金残高 ( 35万円) |
このように、損益計算は、売上や仕入が発生した時に収益・費用を認識し(これを発生主義といいます。)収支計算は実際に現金が動いた時に収入・支出を認識します(これを現金主義といいます。)。 この違いがズレの生じる原因となっています。
今、社長は、損益と収支のズレを感じて事業を進めていますか? |
以上のように、損益計算と収支計算は、「掛け」がある場合には一致しないことがわかりました。 しかし、一致しない原因は他にもあります。
もうひとつ、別の例を挙げて考えてみましょう。
<当期の取引> <留意事項> |
1.損益計算
収益 (150万円) − 費用 ( 130万円) = 利益 (20万円) |
なお、期末に当期の利益(もうけ)に対し、40%の税金(20万円×40%=8万円)を支払うこととなるため、税引後利益は12万円の黒字になります。
上記の内容を「損益計算書」として表示すると以下のようになります。
損益計算書(P/L) | ||
Ⅰ 売上 | 1,500,000円 | |
Ⅱ 売上原価 | ||
仕入 | 680,000円 | |
期末在庫 | -180,000円 | 500,000円 |
売上総利益 | 1,000,000円 | |
Ⅲ 販売費及び一般管理費 | ||
消耗品費 | 180,000円 | |
減価償却費 | 140,000円 | |
アルバイト料 | 480,000円 | 800,000円 |
税引前利益 | 200,000円 | |
税金 | 80,000円 | |
税引き後利益 | 120,000円 |
※在庫の数量 ¥100×1800本
2.収支計算
収支計算は、お金の流れをみます。
(1) 収入
最初の出資1,000,000円と、花の売上代金1,500,000円の合計額2,500,000円が収入となります。
(2) 支出
まず、最初に支出した中古トラックと備品の購入代金880,000円と、期中に支出した花の仕入代金680,000円とアルバイト料480,000円及び期末に支払った税金80,000円の合計額2,120,000円が支出となります。
総収入 (250万円) −総支出 ( 212万円) = 現金残高 (38万円) |
現金残高は38万円ですが、100万円は元々自分の財産であるキャッシュを会社に出資したものだったから、事業で得られたキャッシュは実質62万円も少なくなっています。
上記の内容を「キャッシュフロー(収支)計算書」として表示すると以下のようになります。
キャッシュフロー計算書 | ||
営業活動によるキャッシュフロー | ||
売上代金回収 | +1,500,000円 | |
仕入れ代金支払 | -680,000円 | |
消耗品購入 | -180,000円 | |
アルバイト料支払 | -480,000円 | |
税金支払 | -80,000円 | |
営業CF | +80,000円 | |
投資活動によるキャッシュフロー | ||
中古トラックの購入 | -700,000円 | |
投資CF | | -700,000円 |
財務活動によるキャッシュフロー | ||
出資金 | +1,000,000円 | |
財務CF | +1,000,000円 | |
当期キャッシュフロー | +380,000円 |
3.損益計算と収益計算のズレ
事業で儲かった利益は20万円だったので、8万円の税金を支払いました。 でも、実際に現金は増えるどころか、最初の元手を使い込む結果となってしまっています。
この原因を明らかにしてみましょう。
純利益(税引前) | 200,000円 | |
「20万円はどこへ?」 | ||
①儲かった利益に対する税金 | -800,000円 | |
②中古トラックの購入 | -700,000円 | |
③②の減価償却 | +140,000円 | |
④花の在庫(1800本) | -180,000円 | -820,000円 |
-620,000円 |
以上を分析してみましょう。
① 利益が出たため発生したものです。
②③ 「固定資産の購入(中古トラック)」は当期の「費用」にならず、資産の増加となるためバランスシートに計上されます。
なお、それを耐用年数(5年間)に応じて費用処理していきます。
④ 「期末に売れ残った棚卸資産(花の在庫)」は当期の「費用」にならず(翌期以降売れた段階で費用となります)、資産の増加となるためバランスシートに計上されます。
つまり、設備投資(中古トラックの購入)や、在庫を抱えてしまうことが、キャッシュフローを悪化させる原因となると言えそうです。
もしも最初の資本金が50万円で始めたら、期末のキャッシュ残高はマイナスになり、「事業が大変だ」ということが容易に推測できますね。