以上のように、損益計算と収支計算は、「掛け」がある場合には一致しないことがわかりました。 しかし、一致しない原因は他にもあります。
もうひとつ、別の例を挙げて考えてみましょう。
<当期の取引> <留意事項> |
1.損益計算
まず、当期の収益は5,000本の花を@¥300で販売したので1,500,000円です。
次に、この収益を得るためにかかった費用を計算します。
(1) 仕入
@¥100の花を6,800本仕入れていますが、そのうち当期に売れたのは5,000本で残りの1,800本は期末現在「在庫」として認識し、翌期以降の収益に対応します。
よって、当期の仕入は5,000本の花に係る仕入分の500,000円となります。
(2) 備品一式
消耗品に該当しますので、当期の費用となります。
(3) 中古トラック
トラックも、花の販売に係る費用ですが、5年間の耐久性があるということから、資産(減価償却資産)と認識し、5年間に渡って費用に配分する必要があります。
これを「減価償却」といい、その方法は多種ありますが、今回は、資産の全額を均等償却する定額法により計算することとします。
よって、当期の減価償却費(費用)700,000万円÷5年=140,000円となります。
(4) アルバイト料
当期の費用となります。
(5) 費用の合計
500,000円+180,000円+140,000円+480,000円=1,300,000円
収益 (150万円) − 費用 ( 130万円) = 利益 (20万円) |
なお、期末に当期の利益(もうけ)に対し、40%の税金(20万円×40%=8万円)を支払うこととなるため、税引後利益は12万円の黒字になります。
上記の内容を「損益計算書」として表示すると以下のようになります。
損益計算書(P/L) | ||
Ⅰ 売上 | 1,500,000円 | |
Ⅱ 売上原価 | ||
仕入 | 680,000円 | |
期末在庫 | -180,000円 | 500,000円 |
売上総利益 | 1,000,000円 | |
Ⅲ 販売費及び一般管理費 | ||
消耗品費 | 180,000円 | |
減価償却費 | 140,000円 | |
アルバイト料 | 480,000円 | 800,000円 |
税引前利益 | 200,000円 | |
税金 | 80,000円 | |
税引き後利益 | 120,000円 |
※在庫の数量 ¥100×1800本
2.収支計算
収支計算は、お金の流れをみます。
(1) 収入
最初の出資1,000,000円と、花の売上代金1,500,000円の合計額2,500,000円が収入となります。
(2) 支出
まず、最初に支出した中古トラックと備品の購入代金880,000円と、期中に支出した花の仕入代金680,000円とアルバイト料480,000円及び期末に支払った税金80,000円の合計額2,120,000円が支出となります。
総収入 (250万円) −総支出 ( 212万円) = 現金残高 (38万円) |
現金残高は38万円ですが、100万円は元々自分の財産であるキャッシュを会社に出資したものだったから、事業で得られたキャッシュは実質62万円も少なくなっています。
上記の内容を「キャッシュフロー(収支)計算書」として表示すると以下のようになります。
キャッシュフロー計算書 | ||
営業活動によるキャッシュフロー | ||
売上代金回収 | +1,500,000円 | |
仕入れ代金支払 | -680,000円 | |
消耗品購入 | -180,000円 | |
アルバイト料支払 | -480,000円 | |
税金支払 | -80,000円 | |
営業CF | +80,000円 | |
投資活動によるキャッシュフロー | ||
中古トラックの購入 | -700,000円 | |
投資CF | | -700,000円 |
財務活動によるキャッシュフロー | ||
出資金 | +1,000,000円 | |
財務CF | +1,000,000円 | |
当期キャッシュフロー | +380,000円 |
3.損益計算と収益計算のズレ
最初に立ち返ってみましょう。 「儲かった利益20万円はどこに消えた?」
事業で儲かった利益は20万円だったので、8万円の税金を支払いました。 でも、実際に現金は増えるどころか、最初の元手を使い込む結果となってしまっています。
この原因を明らかにしてみましょう。
純利益(税引前) | 200,000円 | |
「20万円はどこへ?」 | ||
①儲かった利益に対する税金 | -800,000円 | |
②中古トラックの購入 | -700,000円 | |
③②の減価償却 | +140,000円 | |
④花の在庫(1800本) | -180,000円 | -820,000円 |
-620,000円 |
以上を分析してみましょう。
① 利益が出たため発生したものです。
②③ 「固定資産の購入(中古トラック)」は当期の「費用」にならず、資産の増加となるためバランスシートに計上されます。
なお、それを耐用年数(5年間)に応じて費用処理していきます。
④ 「期末に売れ残った棚卸資産(花の在庫)」は当期の「費用」にならず(翌期以降売れた段階で費用となります)、資産の増加となるためバランスシートに計上されます。
つまり、設備投資(中古トラックの購入)や、在庫を抱えてしまうことが、キャッシュフローを悪化させる原因となると言えそうです。
もしも最初の資本金が50万円で始めたら、期末のキャッシュ残高はマイナスになり、「事業が大変だ」ということが容易に推測できますね。